その不調、ただの疲れ?オーバートレーニング症候群の25のサインと正しい対処法

「最近、トレーニングを頑張っているのに、パフォーマンスが上がらない…」。
「なんだか常に疲労感が抜けず、以前より風邪もひきやすくなった気がする」。

そんな風に感じているなら、それは単なる疲れではなく、心と身体からの危険信号かもしれません。
この記事では、あなたの頑張りが空回りしないよう、ご自身の状態を客観的に見つめ、次の一歩を踏み出すための具体的な方法を分かりやすく解説します。

これってオーバートレーニング?まずは25のサインでセルフチェック

なんだか調子が上がらないと感じたとき、それが「一時的な疲労」なのか、それとも注意が必要な「オーバートレーニング症候群」の兆候なのか、気になりますよね。
まずは、ご自身の状態を客観的に判断するためのチェックリストから始めてみましょう。

あなたの不調はどっち?「ただの疲労」と「症候群」の決定的違い

トレーニング後の疲労は、成長のために誰もが経験する自然な反応です。
しかし、その不調が長く続く場合は注意が必要です。
両者の大きな違いは「回復にかかる期間」にあります。

項目ただの疲労(オーバーリーチング)オーバートレーニング症候群(OTS)
状態適切な回復期間があれば、さらなる成長に繋がる負荷がかかった状態。回復能力を超える負荷が続き、心身に異常をきたした「病的な状態」。
回復期間数日〜2週間程度の休養で回復する。回復に数週間〜数ヶ月、場合によっては年単位の期間が必要になる。
パフォーマンス一時的に低下するが、回復後に以前より向上する(超回復)。長期間にわたり低下・停滞し、回復後も元に戻らないことがある。

オーバートレーニング症候群 危険サインチェックリスト

それでは、具体的なサインを見ていきましょう。
以下の項目に複数当てはまり、その状態が数週間以上続いている方は注意が必要です。

パフォーマンス面のサイン

  • 以前はできていたトレーニングがこなせなくなった。
  • 練習や試合でのパフォーマンスが明らかに低下、または停滞している。
  • トレーニングをしても、すぐに疲れてしまう。
  • 練習後の身体の回復が、以前より遅く感じる。
  • 有酸素能力(スタミナ)が落ちたと感じる。

身体面のサイン

  • 十分休んでも、筋肉痛や関節の痛みがずっと続いている。
  • 朝、すっきりと起きられず、常に身体がだるい、重い。
  • 安静にしている時の心拍数が、以前より高い状態が続いている。
  • 風邪をひきやすくなったり、口内炎やヘルペスができやすくなったりした。
  • 食欲がない、または食べても体重が減ってしまう。
  • なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚める、または寝すぎる。
  • めまいや立ちくらみがする。
  • 安静時に動悸や息切れがする。
  • 下痢や便秘を繰り返している。
  • (女性の場合)月経不順になった。
  • 性欲が減退した。
  • 頭痛や頭が重い感じがする。

精神面のサイン

  • あれほど好きだったトレーニングへのやる気が出ない。
  • 理由もなくイライラしたり、不安になったりする。
  • 何事にも興味が持てず、気分が落ち込んでいる。
  • 集中力が続かず、ぼーっとしてしまうことが多い。
  • 周囲から「情緒不安定だ」と言われることがある。
  • 自分を責めてしまう気持ちが強い。
  • 競技やトレーニング以外の日常生活も楽しめなくなった。
  • 将来に対して悲観的になってしまう。

そもそも「オーバートレーニング症候群」とは?原因と放置するリスク

セルフチェックで「もしかして…」と感じた方もいるかもしれません。
ここでは、オーバートレーニング症候群がどのような状態なのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

身体の回復力を超えてしまった「病的な状態」

オーバートレーニング症候群とは、トレーニングによる負荷と、栄養や休養による回復のバランスが崩れてしまった結果、引き起こされる「病的な状態」です。
単なる疲労の蓄積とは違い、自律神経やホルモンバランスの乱れにまで発展し、心身に様々な不調をもたらします。
パフォーマンスの低下だけでなく、日常生活にも支障をきたすことがある深刻な状態なのです。

なぜ起こるの?考えられる4つの主な原因

オーバートレーニング症候群は、単一の原因ではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症します。
主な原因として、以下の4つが挙げられます。

  • 過度なトレーニング
    急激に練習の量や強度を上げすぎたり、十分な休息日を設けずにトレーニングを続けたりすることです。
  • 不十分な休養
    睡眠不足や、心身をリラックスさせる時間が足りていない状態です。
  • 栄養不足
    トレーニングの消費エネルギーに見合ったカロリーや、身体を作るタンパク質などの栄養素が不足している状態です。
  • 精神的ストレス
    競技のプレッシャーや、学業・仕事、人間関係といったトレーニング以外のストレスも大きな要因となります。

「そのうち治る」は危険!放置すると競技復帰が遠のく理由

「少し休めば大丈夫だろう」と軽く考えてしまうのは、とても危険です。
オーバートレーニング症候群は、一度陥ると回復に数ヶ月以上、重症の場合は年単位の時間を要することもあります。
早期に対処しないと、競技からの長期離脱を余儀なくされたり、最悪の場合は競技を断念せざるを得なくなったりする可能性もあるのです。

「オーバートレーニングかも」と思ったら。今日から始める回復&予防プラン

今日から始める回復&予防プランの表

もし「自分はオーバートレーニング症候群かもしれない」と感じたら、焦る必要はありません。
大切なのは、自分の身体の状態を正しく理解し、適切な対処を始めることです。
ここでは、回復と予防のための具体的なプランを紹介します。

回復への第一歩:心と身体を休ませる「正しい休養」

オーバートレーニング症候群の治療において、最も効果的で最も重要なのが「休養」です。
「休むとパフォーマンスが落ちるのでは」と不安に思うかもしれませんが、そんなことはありません。

休養とは?2つの休養をバランスよく取り入れよう!

「休養=強くなるためのトレーニング」と考える

トレーニングとは、身体に負荷をかけることで一時的に能力を低下させ、その後の回復過程で以前より強い状態になる「超回復」を狙うものです。
つまり、休養はトレーニングとセットで初めて効果を発揮する、パフォーマンス向上のための不可欠なプロセスなのです。
罪悪感を感じる必要は全くありません。
「休むことも強くなるための大切なトレーニングだ」と考えて、勇気を持って休みましょう。

回復を促す質の高い睡眠のコツ

身体の修復や疲労回復を担う成長ホルモンは、睡眠中に最も多く分泌されます。
質の高い睡眠をとるために、以下のことを試してみてはいかがでしょうか。

  • 就寝1〜2時間前に入浴し、身体をリラックスさせる。
  • 寝る前はスマートフォンやテレビの強い光を避ける。
  • 寝室は静かで、光が入らないように暗くする。
  • 毎日なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きる習慣をつける。

睡眠の質を高める方法!朝の目覚めが変わる7つの習慣

回復を加速させる食事と栄養のポイント

回復期の身体は、いわば大規模な修復工事を行っている状態です。
その材料となるエネルギーや栄養素が不足しないよう、食事内容を見直してみましょう。
消費したカロリーを補う十分なエネルギー(特に炭水化物)と、筋肉の修復に不可欠なタンパク質、そして体の調子を整えるビタミンやミネラルをバランス良く摂ることが大切です。

もう繰り返さない!再発を防ぐ3つの習慣

一度回復しても、同じことを繰り返しては意味がありません。
長期的に健康なコンディションを維持するために、以下の3つの習慣を身につけましょう。

① 自分の身体を知る「セルフモニタリング」を始めよう

自分の身体の状態を客観的に把握することが、予防の第一歩です。
トレーニング日誌などを活用して、日々の変化を記録してみましょう。

安静時心拍数の平常時と疲労蓄積時の違い
  • 安静時心拍数
    朝、目覚めて起き上がる前の心拍数を毎日測ります。
    普段より5拍以上高い状態が続く場合は、疲労が蓄積しているサインかもしれません。
  • トレーニング日誌
    練習内容だけでなく、その日の疲労感、気分、睡眠時間、食事内容などを記録します。
    「きつさ」を数字で評価する主観的運動強度(RPE)を取り入れるのもおすすめです。

② 無理のないトレーニング計画を立てる

トレーニングの目的は、計画通りに練習をこなすことではなく、パフォーマンスを向上させることです。
その日の体調や疲労度に応じて、「今日は強度を落とそう」「思い切って休もう」と柔軟に計画を調整する勇気を持ちましょう。

③ 意識的に「回復」の時間を取り入れる

「最大のトレーニングは、最大の回復から生まれる」ということを忘れないでください。
質の高い食事と睡眠を確保することは、どんな高度なトレーニングにも劣らない、最も重要なコンディショニングです。
意識的に心と身体を休ませる時間をスケジュールに組み込みましょう。

セルフケアで改善しない…専門家の助けが必要なときは?

十分な休養やセルフケアを試みても、なかなか症状が改善しない場合もあるかもしれません。
そんなときは、一人で抱え込まずに専門家の力を借りることも大切です。

何科を受診すればいい?症状別の相談先

どの科を受診すれば良いか迷う場合は、最もつらい症状に合わせて選ぶのが良いでしょう。

  • スポーツドクター / スポーツ整形外科
    持続的な痛みや疲労感、パフォーマンスの低下など、身体的な症状が強い場合。
  • 心療内科 / 精神科
    気分の落ち込みや意欲の低下、不安感、不眠といった精神的な症状が強い場合。

専門家に相談することで、客観的な診断や適切な治療を受けられるだけでなく、心理的なサポートを得ることもできます。
早期回復への一番の近道になるはずです。

まとめ

  • 自分の状態を知ることが第一歩
    まずはセルフチェックで、自身の心身の状態を客観的に見つめ直すことが大切です。
  • 休養は未来への投資
    休むことは「サボり」ではなく、より高いパフォーマンスを発揮するための最も重要なトレーニングです。
  • 予防はセルフモニタリングから
    日々の体調を記録・観察する習慣が、再発を防ぎ、長期的な成長へと繋がります。

頑張るあなただからこそ、時には立ち止まって自分の身体の声に耳を傾ける時間が必要です。
パフォーマンスの壁にぶつかったり、原因不明の不調に悩んだりするのは、決してあなただけではありません。

この記事で得た知識を武器に、ご自身の心と身体を大切にしながら、より充実したスポーツライフを送ってください。

参考文献

  • Budgett, Richard『Fatigue and underperformance in athletes: the overtraining syndrome』British Journal of Sports Medicine (1998)
  • Carfagno, D., Hendrix, J.『Overtraining Syndrome in the Athlete』Current Sports Medicine Reports (2014)
  • Kreher, J.B.『Diagnosis and prevention of overtraining syndrome: an opinion on education strategies』Open Access J Sports Med (2016)
  • Meeusen, R., Duclos, M., Foster, C. et al.『Prevention, diagnosis, and treatment of the overtraining syndrome: joint consensus statement of the European College of Sport Science and the American College of Sports Medicine』Med Sci Sports Exerc (2013)
  • Stone, M『Overtraining: A Review of the Signs, Symptoms and Possible Causes』Journal of Strength and Conditioning Research (1991)
  • 田上友季也, 畑本陽一, 上原吉就『疲労およびオーバートレーニング症候群の 評価方法に関する研究 −心電図周波数解析を活用した新たな評価方法の検討−』デサントスポーツ科学 (2020)
  • 野島那津子『診断の社会学「論争中の病」を患うということ』慶應義塾大学出版会 (2021)
  • 山本宏明『オーバートレーニング症候群:精神医学の視点から』臨床精神医学 (2022)